2011-05-22

JFKからあてのない手紙

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一月18日。成田からニューヨークのJFKまで。13時間のフライト。もっと長かったかも知れない。
出発したのは朝。寝坊してしまったせい準備する時間は15分。その中でちゃんとタバコ一本吸う時間を見つけたのは今でも不思議と思う。飛行機に間に合わなくても、とにかくタバコにとても相応しい朝だった。
悪癖って、だれでもあるさ。自分が喫煙者でよかったと思うときは決して多くない。でもその掃除されたばかりピカピカな台所の壁にじっともたれながら吸ったその一本のタバコは私にとって非常に貴重なものだった。最後の振り返えの時間だった。たった2分だけ。アパートの匂い。壁の色。ベランダの窓からゆっくりと注ぐ東京の薄い朝の光。あなたの顔。
Phillip Morris, ありがとう。
道に出て、足早に駅まで進む。自分の足元から目が離せない。頭の中は真っ白。真っ白の方がいい。
電車に乗っても真っ白。それ以外に受けている感触は電車の揺れと遣る瀬無い想い、だらしない無力感。
ドアが開けると「気をつけて」、、、
この世の中それ以上に意味のない言葉はないだろう。「頑張って」と同じぐらい。
「うん」。
頷いて電車を降りた。
振り向かずに一歩一歩。
階段下りて。改札を出て。バス亭を探して。バス亭を見つけて。バスに乗って。成田に着いて。
降りて。
飛行機に乗って。
Pushback。
着陸装置が地面から離れる瞬間。涙が流れ出す。目隠しの下からぽろぽろ落ちてゆく。
そして寝る。
着陸する。
乗り換えの便は結局5時間遅延。冷たい冬の雨が落ち続けている。何もかも鉛色に見える。
JFKのターミナル3。 天井から雨がキオスクに漏れている。室内にもハトが飛び回っている。たくさんの遅延のせい殆どの人は苛立っている。
あまりにもボストンに帰りたい。泣きたい気持ちもあるけど涙はもうどこに残ってない。とにかくバーガー食べて、何回も外に出て免税品のタバコを吸う。今回はAmerican Spirit。かなりきついブランドを選んでしまった。
外に出たらまたセキュリティーを通らなければならない。
7回以上靴を脱いで、液体とパソコンを鞄から出して、金属探知機を通った。そして漸くボストンに帰った。
元の仕事。元のアパート。元の不満。
分解された人生はそのまま私を待っていた。ただ一つ変わったのは新しくできた空白。くっきりと感じれる虚空。
二週間ほど何もしなかった。その時間はその最後のタバコと同じように、とても大事な時間だった。
あなたの代わりにウイスキー。
一緒の替わりに一人。
そして動き出した。
人生の完全崩壊。あなたが半分やってくれた。私はその仕事を終わらさないわけには行かなかった。
彼と別れ。
アパートを出て。
仕事辞めて。
とにかく動くんだ。どこにも留まらない。動き続ける。 そのほうがいい。
そしてたどり着いたのはニューヨークのJFK。
ちょうど五ヶ月後。
国際線スタンドバイ。よく同じところでタバコ吸ってる。
鳩は飛び続けている。
今日も雨。今日も皆苛立っている。すべてはグレー色。
縁について考える。
今日もその日振り向かえなかったことについて考える。
その方がよかった。
これからはとにかく飛び続く。